2016年に開催されたパリモーターショーにおいて、ダイムラーAGの会長であるディーター・ツェッチェ氏が同社の世界戦略の柱として提唱したのが「CASE」です。時代とともに「従来の価値観からの脱却」を余儀なくされている各自動車メーカーが、次世代の市場に適合するためのキーワードとなっています。
目次
◾️CASEの意味
C・・・Connected(オンライン接続)
A・・・Autonomous(自動運転)
S・・・Shared & Service(シェア&サービス)
E・・・Electric(電動化)
CASEは自動車業界の新たな成長軸となる4つの戦略の頭文字からなる造語です。
それぞれの分野で革新的な技術が開発され、すでに部分的な実用化に至っており、業界各社はさらなる技術の実現・向上に力を注いでいます。
◾️Connected(オンライン接続)
ICT(情報通信技術)によって、ネットワークと接続可能なクルマをコネクテッドカーと呼びます。具体的な活用例として、交通事故が起きた際に自動的に警察や消防に位置情報を送信する緊急通報システムがすでに運用されており、欧州やロシアでは搭載が義務化されています。また、ICTを利用して蓄積したクルマや運転に関わるデータを自動運転に役立てたり、クルマの機能をスマートフォンなどの端末から操作したりと、幅広い活用が期待されています。なお、通信には電力を使うことになるので、ガソリン車よりもEV(電気自動車)と相性が良いとされています。
◾️Autonomous(自動運転)
CASEが示すAutonomous(自動運転)は、ドライバーによる操作を必要としない、完全自律型の自動車を指します。これは米国自動車技術者協会(SAE)や国土交通省が定める5段階の自動運転レベルのレベル5(最終段階)にあたり、まだ実用化には至っていません。2022年7月現在、日本で運用されているのは限定的な条件下での自動運転のみで、これは自動運転レベルにおけるレベル3にあたります。
Shared & Serviceは、カーシェアリングやライドシェアに代表されるサービスを指します。クルマを所有するのではなくサービス利用者間で共同利用する形態をカーシェアリングといい、一方で「運転者」と「乗りたい人」をマッチングし、いわゆる「相乗り」を実現するサービスがライドシェアです。ライドシェアは欧米や中国では認知度も高く、すでに一般化しています。しかし、日本では法規制の問題でライドシェア事業は展開できず、代わりにタクシーの配車サービス事業が熱を帯びています。
◾️Electric(電気自動車)
近年、環境への配慮から欧州を中心にEV(電気自動車)が注目を集め、普及し始めています。EVはハイブリット車(HV)やプラグインハイブリット車(PHEV/PHV)と違いエンジンを搭載せず、100%電力のみで走行します。広く普及するには充電設備の問題や価格面での課題が残りますが、今後も環境意識の高まりとともにEVへの需要はさらに高まっていくとされています。
◾️「MaaS」との関係
自動車業界において、CASEと並んでよく耳にする言葉に「MaaS(マース)」があります。意味合いも使われる場面も全く違う用語ですが、CASEとMaaSは密接に関連しています。
MaaSは「Mobility as a Service」の略で、訳すると「移動のサービス化」となります。
各種交通手段の一元的な検索・決済サービスやオンデマンド乗合バスなど、多岐にわたるサービス・取り組みが含まれています。社会インフラや街づくりにも関わる大きなトレンドとなっており、自動車業界に限ったものではないという点でCASEとは異なります。
とはいえ、MaaS関連サービスの実現にはコネクテッドカーや自動運転の技術が幅広く取り入れられており、CASEの発展がそのままMaaSの発展に直結すると言っても過言ではないでしょう。
◾️CASE時代を牽引する「Tesla(テスラ)」
CASEの分野で業界を牽引するのが、アメリカのEV(電気自動車)メーカー「Tesla(テスラ)」です。
テスラは2021年に時価総額1兆ドルを突破し、それまで業界トップだったトヨタ自動車を抜いて業界首位に立ちました。
EV(電気自動車)メーカーであるテスラはテクノロジー企業としての側面も持ちます。現CEOのイーロン・マスク氏は2006年、最初の製品であるTesla Roadsterのコンセプト発表時に「炭化水素経済から太陽電池経済への移行を促進するためにテスラは存在する」と述べました。
テスラはコネクテッドカーに自動運転を備えた電気自動車を製造販売しています。さらにマスク氏は、将来的には自動運転車両によるライドシェアサービスに参入する意向を明かしています。実現すればConnected、Autonomous、Shared & Service、Electricという「CASE」のすべてを自前でまかなう世界でも類を見ない企業ということになります。
さらにテスラは今後、太陽電池を車両に装備することで完全自家発電の電気自動車の運行を考えているようです。今後しばらくはテスラが、CASEを標榜する自動車メーカーのリーダーとして業界を牽引していくことが予想されます。
◾️自動車業界におけるAI活用
自動車業界ではCASEの発展とともに、幅広い分野でのAI活用も行われています。
自動車とAIというと真っ先に思い浮かぶのが自動運転への活用ですが、実は自動車の設計・製造や販売の過程でもAI技術は活かされています。
◾️設計段階での活用
本田技術研究所では、歩行者の安全を確保するためのボンネットデザインの設計にAIを役立てています。同社では交通事故による死亡事故の減少と安全なエンジン保護を両立させるため、最適なボンネットの形状を予測することを目指したAI、ディープラーニング技術の活用に取り組んでいます。
◾️製造段階での活用
AIの画像認識技術の進化により、製造業ではAIによる検査システムが次々と開発・導入されています。良品の画像や不良箇所の画像をAIに学習させることで良品と不良品の判別をさせ、品質検査にかかる時間の短縮と精度の高い検査作業を実現する、といった活用例が生まれています。
◾️販売への活用
自動車販売の現場においても、AI技術は活用されています。電通と電通デジタルは、日本語AIの自然対話サービス「Kiku-Hana(キクハナ)」とナビタイムジャパンのカーナビアプリを組み合わせた独自システムを開発しました。これまで営業スタッフが同乗して行っていた試乗ルート案内や車のセールスポイント紹介などの試乗中の会話を、車載スマホに入ったAIに行わせる取り組みを進めています。このシステムにより、営業スタッフの省略化や気楽に試乗を楽しめるという効果が見込まれています。
また、SUZUKI自動車の四輪サイトに導入された弊社(SELF株式会社)のコミュニケーションAIは、自動車の購入を検討しているユーザーに適切な案内を行うことで、スムーズな店舗誘導や顧客満足度の向上に寄与しています。こうしたWeb上での自動接客によって取得した顧客ニーズをデータ化し、営業スタッフがその後の商談等でその内容を活用したり、サービス改善に活かすことも可能となります。
◾️AI活用で「ヒトを理解する未来のクルマ」へ
近年、環境意識の高まりや新型コロナウイルス流行の影響から、クルマの価値そのものに変化が起こっていると言われています。もともと、より環境負荷の小さいモビリティへと人々の意識が向かっていた中、新型コロナウィルスの流行がそれに拍車をかけることになりました。リモートワークの普及などによって移動の機会が減少したことで、高額で維持費もかかり環境負荷も大きいクルマへのニーズは減少の一途をたどっています。その一方で、より手軽で環境負荷の小さい自転車などのモビリティやカーシェアリングに注目が集まるようになりました。この傾向は、パンデミックが収束した後の世界でも継続するとされています。
そんな中、自動車業界が今後も消費者のニーズを獲得していくためには、CASEの発展が必要不可欠といえるでしょう。また近年ではあらゆる分野のプロダクトにおいて「パーソナライズ」がキーワードの一つとなっています。多様化する顧客・消費者のニーズを的確に捉え、最適なサービスの提供が求められているという点では、自動車業界も例外ではありません。
◾️トヨタのパーソナライズへの取り組み
トヨタ自動車は、サブスクリプションモデルのKINTOで運転データをもとにクルマのソフトウェアを一人ひとりに最適化していく取り組み、「パーソナライズ」を開始しました。運転時に収集したアクセル・ブレーキの踏み方やステアリングの切り方などのデータによって、個人ごとの運転の特徴を分析し、ステアリングアシスト、アクセルレスポンス、4WD駆動配分などの設定を調整することができます。
◾️音声アシスタントの進化
近年では、より高度な音声アシスタントを搭載したクルマも続々と登場しています。
一つ一つ個別の操作をしなくても、音声アシスタントに話しかけるだけで車内の空調やオーディオを操作したり、カーナビの設定を行うことができるというのが従来の音声アシスタントの機能でした。この音声アシスタントが、コネクテッドカーに搭載されることで利用の幅は大きく広がります。最新の交通情報やニュースをリアルタイムで運転者にアナウンスしたり、走行している場所付近のレストランや施設を検索してレコメンドしたり、予約することなども可能となるでしょう。映画・音楽・ゲームなどの最新コンテンツを車内で快適に楽しめるようになれば、クルマはただの移動手段ではなく、より洗練されたエンターテインメント空間になり得るでしょう。さらに、ここにAIを利用したパーソナライズ技術を組み合わせることによって、運転者の嗜好や行動傾向に合わせた情報・サービスを提案することも可能になります。
◾️SELF株式会社の取り組み
SELF株式会社の提供するコミュニケーションAIは会話によってユーザーの情報を取得し、最適な情報を提案することができます。アプリやカーナビに導入することでユーザーの嗜好や状態(気分、体調など)に合わせた行き先の提案や、運転へのアドバイス、最新情報の提供などを行うことができます。
さらにSELFのコミュニケーションAIは、ユーザーひとりひとりを個別に把握して案内することができ、Webサイトのような不特定多数のユーザーが利用するシーンで多く採用されています。この技術を応用すれば、カーシェアリングなどで複数のユーザーが同じクルマを使用する場合でも、個別のユーザーの嗜好・特徴を理解した案内を行うことが可能です。さらに他ユーザーの行動履歴などのデータを利用してより発展したレコメンドを行うこともでき、まさに「ヒトを理解するモビリティサービス」を実現することができます。
◾️「走る」だけじゃない、クルマの新しい価値
今後も自動車業界はCASEをはじめとする時代に適合した技術・サービスの開発・改善に力を注いでいくことになるでしょう。CASEの発展に加え、音声アシスタントの進化による利便性向上、さらにAI技術を用いたパーソナライズにより、自動車はより「人の生活に寄り添う」ことのできる存在になるでしょう。
手軽に利用できて、なおかつユーザーひとりひとりに合わせた快適な移動空間を提供する……それはもはや単なるモビリティではなく、ヒトの多様なニーズに応える新たなスマートデバイスです。近い将来、もしかするとクルマが、人にとってもっとも身近な「多機能ロボット」となっているかもしれません。
〈参考資料〉
自動運転ラボ
CASEとは?意味は?(2022年最新版) コネクテッドや自動運転を示す略語
TOYOTA
お乗りのクルマを最新の状態に「進化」させる取り組みに挑戦-新サービス「KINTO FACTORY」を22年1月下旬より開始-
ニュアンス・コミュニケーションズ・ジャパン株式会社
シニア プリンシパル テクニカル エクスパート 石川 泰
進化するAI音声アシスタントの最新技術
ビジネス+IT
【図解】テスラは何がどうすごいのか、「自動車業界の破壊者」のビジネスを徹底分析
経済産業省
⾃動⾞産業の現状
SELFのライターを中心に構成されているチーム。対話型エンジン「コミュニケーションAI」の導入によるメリットをはじめ、各業界における弊社サービスの活用事例などを紹介している。その他、SELFで一緒に働いてくれる仲間を随時募集中。