この記事では、2025年1月31日に公開されたOpenAI o3-miniについて解説しています。
また、OpenAIの主要モデルであるGPT-4oに代表される「GPTシリーズ」と「o1シリーズ」の違いを様々な角度から比較し、それぞれのモデルの特徴や得意分野、最適な活用方法について詳しく解説していきます。
OpenAIが開発した大規模言語モデルは、近年目覚ましい進化を遂げています。2023年3月に発表されたGPT-4、そして同年11月に発表されたGPT-4oと、その進化は留まることを知りません。そして2024年9月、OpenAIは推論能力に長けた新モデル「OpenAI o1」を発表、さらに2025年1月末には、上位モデルである「o3-mini」を公開しました。
o1やo3-miniは、GPT-4oと比べて推論能力が大幅に向上したと言われており、複雑なタスクを論理的に処理し、科学、数学、コーディングにおけるより高度な問題を解決できるとされています。
目次
◇OpenAI o1、o3-miniとは?
OpenAI o1は、OpenAIによって開発された最新の言語モデルです。従来のGPTシリーズとは異なり、思考プロセスに重点を置いた設計がされています。o1には「推論トークン」という仕組みが採用されており、結論を出す前に段階的な推論を重ねることで、特定の分野でGPT-4oを上回る問題解決能力を発揮します。
◆OpenAI o1の特徴
o1の特徴は、以下の点が挙げられます。
- 高度な推論能力を持ち、複雑な問題解決に適している
- 数学やSTEM分野(科学、技術、工学、数学)に強い
- コーディングでも高いパフォーマンスを発揮
- 一部の自然言語処理タスクではGPT-4oに劣る
o1は、STEMなどの特定の分野でGPT-4oをはじめとする従来のAIモデルよりも、高度なタスクをこなすことが可能です。

◆o1-miniとPro modeについて
o1は推論を重ねることで回答の精度を高めるプロセスを採用しているため、GPT-4oに比べて応答速度が遅いという欠点があります。o1-miniはSTEM分野(科学、技術、工学、数学)でo1と同等の性能を持ちながら、処理速度を向上させたモデルです。一方で、STEM分野意外の一般的な知識が問われるタスクでは、o1や他のモデルより性能が劣るとされています。ちなみに、API利用時のo1-miniの価格はo1よりも大幅に低く設定されており、リーズナブルに利用できます。
また、ChatGPTの最上級プランであるProに加入することで、o1のPro modeを利用することができます。Pro modeはo1よりも性能が向上しており、特に数学の分野で通常のo1を大きく上回っています。
◆o3-miniとは
o3-miniは2025年1月31日にOpenAIが公開した最新の推論モデルで、o1の上位モデルです。
STEM分野においてo1を上回る推論能力を持ちながら、o1の課題であった応答速度とコスト面が改善されています。

また、o1シリーズの特徴である「推論トークン」を利用した思考の深さを「high/medium/low」の3段階から選ぶことができ、処理にかかる時間をユーザー自ら調節することが可能です。さらに外部のAPIや関数と適切に連携する「Function Calling」や構造化された回答(JSON形式での回答など)の出力、Webブラウジングといった機能も追加され、汎用的に活用できるモデルとなっています。一方で、o1で可能な画像の認識は、現時点でのo3-miniはできず、あくまでもテキストの処理に特化したモデルとなっています。
o3-miniは現在、ChatGPTの有料プラン(Plus、Pro、Team)で利用可能となっている他、Microsoft AzureなどのAPIでも提供されています。
◆GPTシリーズではない?
o1の正式名称は「OpenAI o1」です。前述の通り、o1とGPTシリーズでは生成に至るまでのプロセスが異なります。GPTシリーズで1〜4まで続いてきたカウンターもリセットされていることから、o1はGPTシリーズとは別のAIモデルと言えるでしょう。
しかし現時点(2025年2月)でo1は、ChatGPTの機能として公開されています。このことから誤解が生じ、「ChatGPT o1」や「GPT-o1」などと誤記されることもあります。
o3-miniは、o1と同じ推論に特化した上位モデルであることから「o1シリーズ」と言えるでしょう。OpenAIは今後の展望として、o1を無料で公開する予定とし、GPTシリーズと並行してo1シリーズを発展させていくとしています。
◆OpenAI o1、o3-miniの使い方
o1とo3-miniは現在、ChatGPTの有料プランユーザーに限定公開されています。利用するには、ChatGPT Plus、Pro、Teamのいずれかに加入する必要があります。
また、ChatGPT PlusおよびTeamユーザーは、o1シリーズの利用に以下の制限がつきます。
- o1の利用:週に50メッセージまで
- o3-mini (o1-mini) の利用:1日に150メッセージまで
◇OpenAI o1とGPT-4oの違い
o1シリーズとGPTシリーズの最も大きな違いは、前述の通り思考プロセスにあります。
GPTは、大量のデータからパターンを学習し、そのパターンに基づいて迅速に回答を生成します。一方でo1は「推論トークン」というGPTにはない仕組みが採用されており、連鎖的な推論を重ねることで、より複雑な問題に対応できるよう設計されています。
◆それぞれの得意分野と苦手分野
OpenAI o1やo3-miniは、推論トークンの導入によってSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野でGPT-4oを大きく上回る性能を発揮します。ただし、一部の自然言語処理タスクではGPT-4oの方が優れており、どちらのモデルが優秀かは一概にはいえません。
また、o1の欠点として処理速度の遅さがあります。o3-miniで改善はされてはいるものの、GPT-4oの応答速度には及びません。また、o1やo3-miniは専門的な問題に正確な回答を出すことができる一方、GPT-4oのような、まるで人と話しているかのような自然な振る舞いは苦手です。一部の自然言語処理タスクではo1よりもGPT-4oの解答の方がユーザーから好まれる、という検証結果もあります。
言うなれば、GPT-4oは「素早く、自然に答える」ことに特化したモデルであり、o1やo3-miniは「複雑な問題に熟考して答える」ことに特化したモデルと言えるでしょう。
◇OpenAI o1、o3-miniとGPT-4oの比較
o1およびo3-miniとGPT-4oの性能を様々な側面から比較してみましょう。
◆推論能力の比較
OpenAIによると、o1は物理学、化学、生物学のベンチマークタスクで博士課程の学生に匹敵する性能を発揮しました。さらに国際数学オリンピック(IMO)の予選では、GPT-4oが13%の正答率だったのに対し、推論能力に優れたo1は83%の正答率を実現しました。(図1参照)
また、Codeforces(プログラミング競技)で89パーセンタイルの成績を収めるなど、コード生成の分野でも大きな進歩が見られたということです。
o3-miniは、o1をさらに上回る性能を備えています。OpenAIの発表によると、数学の分野では、最も推論能力に長けたhighモードでo1を上回る結果を残し、生物学・化学・物理学の問題に対しては、lowモード でもo1-miniを上回る性能を発揮しました。(図2参照)
STEM(化学、技術、工学、数学)やコード生成の分野ではo1、o3-miniがGPT-4oを圧倒的に上回っていると言えるでしょう。
◆安全性の比較
また、OpenAIはo1の開発に伴い、推論能力を活用してAIが安全性と整合性のガイドラインを遵守するための新しいトレーニング手法を導入したことを発表しました。OpenAIが行ったジェイルブレイク(あらかじめ設けられた制限を非正規に回避しようとする試み)に対するテストでは、GPT-4oが100点満点中22点だったのに対し、o1は84点を記録しました。
もちろん、o1の後継モデルであるo3-miniも同様に高い安全性を備えています。
◆汎用性の比較
GPT-4oはテキストデータに加え、画像や音声データの処理も可能なマルチモーダルAIです。そのため画像生成や音声入力などの多様な機能を備えており、Web検索(ブラウジング)も可能です。2022年11月から無料で公開されており、多くの人に様々な用途で利用されています。
一方o1は、現時点ではGPT-4oのような汎用性はありません。o1はフルバージョンの公開と共に画像の認識機能が追加されましたが生成はできず、o3-miniは現時点(2025年2月)では画像の認識もできません。また、o1とo3-miniは無料で利用する方法がなく、ChatGPTの有料プラン、もしくはAPIでのみ使えるモデルとなっています。
◆応答速度の比較
処理速度に関しては、GPT-4oの方が優れています。GPT-4oは大量のデータを高速に処理し、迅速に回答を生成することができます。o1は段階的な推論を行うため、GPT-4oと比較して回答に時間がかかる傾向があります。
o1-mini、o3-miniは応答速度の面でo1より優れていますが、GPT-4oのような即応はできません。
◆OpenAI o1とGPT-4oの比較まとめ

◇「OpenAI o1」vs「GPT-4o」思考クイズ対決
ここまでは、OpenAIの公式情報をもとにまとめたOpenAI o1とGPT-4oの比較です。
ここからは、Azure OpenAI Serviceで両モデルと連携済みの生成AIチャットボット「SELFBOT」を使って、それぞれのモデルの性能を確認したいと思います。
今回は、それぞれのモデルの推論能力を比較するために、有名な思考クイズを何問か出題してみます。(なお、o3-miniは3段階のモードによって性能が異なるため、検証結果が複雑になる懸念から、今回はo1モデルを使用します)
◆Round.1
【問題】 人嫌いの客ばかりが集まるバーがある。 そのバーには13脚のイスが一列に並んでいて、 どの客も先客からいちばん離れたイスに座る。 そして誰も、人の隣には決して座らない。 店に入り、座れる席がないと客は店を出てしまう。 バーテンダーは、一人でも多くの客に座ってほしい。 バーテンダーが1人目の客に座る席を指定できるとしたら、 どの席に座らせればいいだろうか?
【答え】5番目か9番目の席
13脚の椅子に人が隣り合わないように座ると、最大で7人座ることができます。その状態から逆算すると、最初の客は端から5番目か9番目の席に座らせる必要があります。
GPT-4oの回答

自信ありげに長々と回答していますが、完全に誤っています。
問題文にある「誰も、人の隣には決して座らない」という条件を無視してしまっており、「最終的に13人全員が座ることができる」という頓珍漢な回答に。
OpenAI o1の回答

なんと、推論能力に長けているはずのo1でも不正解です。GPT-4oと同様に、中央の席から客を座らせてしまったせいで、最大で5人しか座れないという結論に。「客は隣り合う席には座らない」という条件を把握している分、GPT-4oよりはマシな回答と言えそうです。
◆Round.2
【問題】
A,B,C,D,E,F,Gの7人が、曜日について話している。
A「明後日は水曜日です」
B「いいえ、今日が水曜日です」
C「違います、明日が水曜日です」
D「今日は月・火・水曜日のいずれでもない」
E「昨日は木曜日だったよ」
F「明日が木曜日だよ」
G「昨日は土曜日じゃなかったよ」
7人のうち、真実を語っているのは1人だけ。今日は何曜日?
【答え】日曜日 全ての発言を「今日が何曜日か」に置き換えてみると、日曜日以外のすべての曜日については二人以上が矛盾しない発言をしています。しかし真実を言っているのは一人だけのはずなので、今日が日曜日だと仮定します。今日が日曜日である可能性を示しているのはDの人物のみということになり、「真実を言っているのは一人だけ」という条件に合致します。これにより、今日は日曜日ということになります。
GPT-4oの回答


またしても長々と回答したものの不正解。回答から思考のプロセスを見てみると、DとGの証言を「矛盾しない」と判断したことが誤りの原因に見えます。最終的には何故かEが真実を言っていると主張し、「今日は金曜日」という誤った結論を導いてしまいました。
OpenAI o1の回答


こちらは見事に正解です。問題文を正確に理解し、真実を言っているのがDだと判断して「今日は日曜日」という正答を導きました。思考のプロセスも含め、完ぺきな回答と言えるでしょう。
◆Round.3
【問題】
A,Bの2人が、じゃんけんで10回勝負をした。
Aはグーを3回、チョキを6回、パーを1回出した。
Bはグーを2回、チョキを4回、パーを4回出した。
あいこには一度もならなかった。
熱中しすぎた2人は、何の手をどの順番で出したか覚えていない。
多く勝ったのはどっち?
【解答】7勝3敗でAが多く勝った 「あいこには一度もならなかった」ので、Aがチョキを出した時、Bはグーかパーを出していることになります。Aのチョキ6回に対して、Bはグーを2回、パーを4回出しています。つまりこの時点でAの4勝2敗。同様にBがチョキを出した時、Aはグーかパーを出しているおり、回数をみるとAの3勝1敗であったことがわかります。よって、10回勝負の合計は7勝3敗でAの方が多く勝ったことがわかります。
GPT-4oの回答


GPT-4oはここでも不正解です。AとBの勝敗を手の組み合わせごとに分類していますが、勝敗の断定方法が意味不明。結果、6勝4敗でBの方が多く勝ったという間違った回答に。
OpenAI o1の回答


o1は見事に正解です。さすが推論能力に優れたモデルといったところでしょうか。ただし、なにやら複雑な計算の末に正解に辿り着いており、回答は長過ぎます。「AとBのチョキの回数」にさえ着目すれば、計算式など不要で正解にたどり着ける問題ですが、数学が得意ゆえに考え過ぎてしまったのでしょうか。
◆対決結果
今回のクイズ3本勝負は、OpenAI o1が2問正解、GPT-4oは全問不正解ということで、OpenAI o1の勝利となりました。やはり、推論能力に定評のあるモデルの実力は伊達ではないようです。
ただし、1問目はOpenAI o1も間違えており、推論に長けたモデルとはいえ、完璧ではないということもわかりました。やはり、大規模言語モデルを利用する際はハルシネーションの可能性を考慮して、ファクトチェックを行うことが欠かせません。
→ハルシネーションについて、詳しくはこちら
◇OoenAI o1とGPT-4o、どう使い分ける?
前項のクイズ対決ではo1が勝利しましたが、o1とo3-mini、そしてGPT-4oはそれぞれ異なる得意分野を持っています。主にビジネスの現場で、それぞれどのような用途に適しているかを見ていきましょう。
◆OpenAI o1、o3-miniの用途
- 複雑な問題解決:数学、科学、プログラミングなど、論理的思考を必要とする問題の解決
- 分析:データ分析やレポート作成など、情報を分析し、論理的な結論を導き出すタスク
- 戦略立案:マーケティング戦略など、複雑な要素を考慮した戦略立案を支援
◆GPT-4oの用途
- 文章作成:メール、論文、ブログなど、様々なジャンルの文章作成
- 翻訳:多様な言語間で高精度な翻訳を提供
- 要約:長文のテキストを要約
- 対話:応答速度が速く、自然なやりとりが可能
- 画像生成:画像を生成したり、画像の内容を理解することが可能
それぞれのモデルの得意分野を理解することで、より効果的に活用することができます。
例えば、論理的な思考が必要なタスクにはOpenAI o1を、表現力や応答速度が求められるタスクにはGPT-4oを選択する、といった使い分けが考えられます。
◇特徴の違いを理解して効果的な活用を
OpenAI o1やo3-miniは、GPT-4oとは異なるアーキテクチャを採用し、高度な推論能力を実現したAIモデルです。したがって複雑な問題解決や分析、戦略立案など、様々な分野でその力を発揮することが期待されます。
一方、GPT-4oは、文章作成、翻訳、要約、対話など、幅広いタスクに対応できる汎用性の高いAIモデルです。それぞれのモデルの特徴を理解し、適切に使い分けることで、AIの力を最大限に引き出すことができるでしょう。
OpenAI o1とGPT-4o、どちらも使えるAIツール
SELF株式会社の提供する生成AIチャットボット「SELFBOT」は、GPT-4o、OpenAI o1と連携しています。自然な口調や素早い応答が求められる用途にはGPT-4oを、高度な推論を必要とする分析や戦略立案にはo1を、という風に用途に応じて連携モデルを変更することも可能です。
SELFBOTは、カスタマーサポートや社内問い合わせ対応の効率化を目的として、数多くの企業、自治体、教育機関に導入いただいています。また、生成AIとRAG(検索拡張生成)システムの基本と運用が学べる無料体験セミナーも実施しています。
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