OpenAI社の「ChatGPT」が公開されて以降、生成AIの様々な活用法や課題、潜在的なリスクなどが活発に取りざたされています。今後、急速に進化、発展して行くであろう生成AIのこれから(将来性)と私たちの生活に与える影響について考察します。
目次
◇「ハイプ・サイクル」に見る生成AIの今後
ハイプ・サイクル(Hype Cycle)とは、米ガートナー社が提唱する新しい技術やイノベーションが市場に導入される際の一般的なパターンを表現したモデルです。新しい技術の「期待度」を縦軸、「時間」を横軸としてグラフ化すると、アルファベットの大文字の「N」のようなカーブを描くとされています。
ハイプ・サイクルは「黎明期」「過度な期待のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」の5段階で構成され、毎年ガートナー社から先進技術がどの段階に属するかを考察したレポートが発表されています。
2022年7月に発表された「先進テクノロジのハイプ・サイクル」(出典:Gartner)では「メタバース」や「デジタルヒューマン」とともに「ジェネレーティブデザインAI」や「機械学習コード生成」は黎明期の初期段階にあるとされています。
このレポートが発表されたのはChatGPTの公開(2022年11月)以前でした。
◆生成AIは「過度な期待」のピーク期
2024年8月、ガートナー社が発表した「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」(出典:Gartner)で「生成AI」は2023年に続いて「過度な期待」のピーク期とされています。また、生成AIの精度を高める手法として一般化しつつある「RAG(検索拡張生成)」の技術も同じく「過度な期待」のピーク期に位置しています。
今後、これらの技術が「NFT」や「メタバース」と同じく幻滅期を迎えるかどうかが注目されます。
◆「幻滅期」は来る? 生成AIの将来性
生成AIにはクリアしなくてはならない課題が数多くあることが指摘されています。
具体的には生成されるデータの精度(正確性、信頼性)、データプライバシーに関する懸念、学習データ・生成物の著作権や倫理面の問題などがあります。
現状(2024年9月)、これらの課題が完全に解消されないままに、生成AIは様々なサービス、ツールに組み込まれ、PCやスマートフォンといった誰にとっても身近なデバイスにも搭載され始めています。今後、AIに関する知識やリテラシーを持たない一般人が日常的に生成AIを利用することになるでしょう。その過程で、上述した様々な懸念が現実的な問題を引き起こし始めれば、生成AIはハイプ・サイクル における幻滅期を迎えるかもしれません。
ただし、幻滅期を迎えたからといって生成AIの発展が抑制されるとは考えにくいでしょう。より現実的な活用法が模索されるとともに性能の向上やガイドラインの策定が進み、ひとつひとつの課題が解消され、導入される市場が拡大していくと予想されます。
◇生成AIの活用はどの分野から?
上述した通り、生成AIの活用には懸念や課題が数多くあります。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、ビジネス分野での活用が急速に広がっている一方、学術分野では論文の盗用などへの懸念が強く、一部では使用を禁止するなどの措置がとられています。また、芸術分野や芸能関係団体からはアーティストやクリエーターの権利侵害への懸念が高まっており、法整備を求める声が強く上がっています。
こういった状況を鑑みると、生成AIの活用はビジネス分野が牽引していくことが確実でしょう。
◆現時点での活用法は「業務効率化」が多い
現状、生成AIのビジネス利用といえば、OpenAI社のChatGPTの利用やGPTと連携した各種サービスの利用が多くみられます。GPTの機能はAzure OpenAI Service(API)と連携することで一般向けに公開されているChatGPTよりも格段にセキュアな環境で運用することができます。
・社内利用(業務効率化)
GPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、その精度に課題を抱えています。誤った情報をさも事実かのように答えてしまったり、不適切な返答をしてしまうこともあります。そのため、企業がいきなり顧客向けのサービスに導入するのはややハードルが高く、現時点では社内での業務効率化に利用されるケースが多くなっています。GPTなどのLLMは、社内ナレッジの検索やメール・広告文といった文書の作成・添削・翻訳などに適しています。
社内での業務効率化に特化したGPT連携チャットボットなどのサービスも続々と登場しています。詳しくはこちらの記事もご覧ください。
・カスタマーサポート、顧客向けサービス
回答の精度に課題(誤情報、不適切回答)を抱えるLLMですが、APIを用いて学習範囲を限定するなどの方法で対処することは可能です。実際に学習内容や用途を限定した上で、カスタマーサポートや顧客向けのサービスに導入する事例も出てきています。Webサイトでの問い合わせ対応やコンテンツ案内はもちろんのこと、占いサービスやマッチングアプリのプロフィール添削に導入されるケースも見られます。詳しくはこちらの記事もご覧ください。
◆直面する社会課題
近年、日本では教育、保育、看護、介護などの対人援助職の人材不足が深刻化しています。また、2025年には日本全体で必要なIT人材が43%不足し、国際競争力を失うとされる「2025年の崖」問題もあります。
生成AIの活用はこうした深刻な社会問題を解決する突破口となる可能性を秘めています。
◆日本企業のDX取り組み状況
総務省が公開した令和6年版(2024年)「情報通信白書」によると、国内外企業におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組み状況の調査において日本の企業のデジタル化への取り組みは、米国、中国、ドイツといった先進各国と比較して遅れていることが示されました(下図)。
また、日本企業における「デジタル化への課題」としては「人材不足(42.1%)」の回答割合が最も大きく、深刻な状況が浮き彫りとなっています。さらに、AIやデジタル解析の専門家などのデジタル化に関わる人材の在籍状況調査では、日本と他国の歴然とした差が示されています(下図)。
◆DX促進のカンフル剤となるか
一方で、AI活用などのDXのための人材不足を解決するのもまたAIとなり得ます。
現状(2024年9月)、ChatGPTなどのLLM(大規模言語モデル)を活用した様々なビジネスツール、サービスが登場しており、それらの多くに共通する大きな特徴は、ノーコードで業務改善が可能なAIツールを導入可能な点です。そうした特徴はまさに、専門的なデジタル人材が不足している日本の企業に適していると言えるでしょう。
今後、生成AIを搭載したツール、サービスがさらに発展、普及していくことによって、人材不足によって遅れていた日本企業のDXが大きく前進するかもしれません。
最新の生成AI活用状況については、こちらの記事をご覧ください。
◇さらなる普及への課題は
生成AIの中でも、ChatGPTをはじめとするLLMはその汎用性の高さから、今後あらゆる分野での活用が見込まれます。
テキストの解析・生成ができるというLLMの特性上、特に学習対象となるデータが豊富な分野ほど高い導入効果が期待でき、医療、金融、教育などの分野での活用が模索されています。
とはいえ、LLMはまだ発展途上のテクノロジであるため、その潜在的なリスクについてまだ十分に検証されていません。また、LLMがテキストを解析・生成する過程はブラックボックスとなっているため、100パーセントの正確性や安全性を保障するのは困難です。こういった事情から、個人情報などの機密性の高い情報を扱うサービスへの普及には時間がかかるでしょう。
◆「個人」を把握できないAI
AIを使ったサービスの普及には他にも課題があります。先ごろ、全米摂食障害協会(NEDA)の相談窓口に導入されたチャットボットが、「摂食障害を抱えている相談者に減量を勧める」などの不適切なアドバイスをしたとして、導入からわずか数日後に閉鎖されました。詳細な原因は不明ですが、AIがユーザーの状況や状態を把握せずに定型的な対応をしたために起こった不具合と思われます。
この事例に代表されるように、AIは個別のユーザーの事情を汲まず、ただ「一般的に見てそれらしい結果」を提供します。その結果が個別の事情を抱えるユーザーにとっては不適切な内容であったとしても、現状のLLMに特定の個人への配慮はできません。この懸念は、医療や教育、介護といったセンシティブな対人援助が必要とされる分野で重大なリスクと言えるでしょう。
生成AIはあらかじめ与えられた材料(学習データ)を使って新たなデータを生成することには長けていますが、ひとりひとりのユーザーに合わせた適切なデータを提供することはできないのです。
◆用途拡大のカギは「ユーザー理解」か
逆に言えば、生成AIがユーザー個人の状況や状態を正確に把握してデータを生成できるようになれば、一気に活用の幅が広がることになります。ヘルスケアやメンタルヘルス分野で信頼できる相談員の役割を果たし、教育分野では対象となる学生の個性や能力に応じた高度な学習支援ができるようになるかもしれません。
これを実現するためには、AIがユーザーの情報を積極的に取得し、長期にわたって記憶する仕組みが必要です。既存のLLMや画像生成AIはあくまでも学習したデータから新たなデータを生成する技術なので、個々人にパーソナライズされたデータを出力するには生成AIとは別の「ユーザー理解」に特化したシステムが必要になります。
◆「マルチモーダル化」で利便性向上
異なる種類(テキスト、画像、音声、動画など)のデータを同時に処理する「マルチモーダルAI」も普及のカギとなるでしょう。2023年6月、Googleは音声認識と音声生成を目的とする大規模言語モデル(LLM)「AudioPaLM」を発表しました。このモデルには、テキストベースのLLM「PaLM-2」と、音声ベースのLLM「AudioLM」を統合したマルチモーダルアーキテクチャが採用されており、テキストデータと音声データを一つのモデルで処理・生成することが可能です。
現状ではまだデモ段階ですが、このモデルは入力された音声を別の言語に翻訳すると同時に音声を生成することが可能です。実用化されれば異なる言語間で自由に音声コミュニケーションができるようになると期待されています。
また、現在の生成AIブームを牽引するGPTシリーズのうち、GPT-3やGPT-3.5はテキストデータの処理に特化したシングルモーダルAIですが、2023年3月に発表されたGPT-4、そして2024年5月に発表されたGPT-4oはテキストに加え画像データも処理できるマルチモーダルAIです。今後、他の生成AIモデルでもマルチモーダル化が進むと予想されます。
他にも、マルチモーダルAIは様々な産業用ロボットや自動運転システム、動画プラットフォームの監視などの用途ですでに活用されています。
◆「監視するAI」の必要性
また、現状の生成AIが抱える安全性の問題は、複数のAI間の連携によって対処されることになりそうです。2023年7月、ChatGPTを開発したOpenAIは、AIの安全性を高めるために新たな研究チームを立ち上げ、最終的にはAIがAIを監視できるようになることを目指すと発表しました。実現すれば、生成AIとそれを監視するAIを複合した、より安全性の高いモデルとなるでしょう。
膨大な量のデータを処理するAIは、人の手で完全にコントロールすることは不可能と言われています。だからこそ、AIの挙動はAIが監視し、制御するしかないのだと考えられます。
このように、複数のAIを連動させることはAIの「利便性」「安全性」を飛躍的に高めることに繋がります。さらに発展して、主だったAIの機能を一つのプラットフォームから利用できるシステムが実現すれば、各分野での活用の幅が一気に広がることでしょう。
◇企業導入から「パーソナルAI」へ
◆「パソコン」が普及したきっかけ
1980年代〜90年代にかけて急速に普及したパソコンですが、当初は用途も限られ、利用するには専門的な知識や難しい操作が必要でした。そんな中、1995年にMicrosoftからリリースされた「Windows 95」には本格的なマルチメディア機能やネットワーク機能が搭載され、これを機にWindows版のアプリケーションソフトが次々と登場することになります。
機体の小型化や操作の簡易化も進み、パソコンは専門家や一部のマニアのものではなく一般家庭にも広く普及することになりました。
ソフトウェアやアプリケーションの多様化によって用途はビジネスのみならずコミュニケーション、娯楽、学習などへと広がり、ノートPCの普及によってさらに身近なものとなりました。
現在ではスマートフォンやタブレットなど、パソコンと同等の機能を持つデバイスが個人の日常生活に欠かせないツールとして親しまれています。
◆生成AIの普及は?
生成AIは、現時点では安全かつ有効に活用できる用途が限られており、検証も不十分です。すでにビジネスに活用されてはいるものの、導入された業界の革新に及ぶような活用事例はまだ見られません。また、目的に合わせてカスタマイズするにはプログラミングなどの専門的な知識が必要です。しかし、昨今の技術革新には目覚しいものがあり、既存のシステムや他のAIとの連携によって様々な課題が解決されることになるでしょう。
◆パーソナルAIの時代へ
現状はかつてのPCソフトウェアのように単一の目的に特化したAIモデルやサービスが続々と登場し、企業導入によってビジネスに活用され始めている段階です。今後さらに、各業界や専門分野に特化したモデルや、低年齢向け、高齢者向けなど利用者に合わせたサービスが登場することになるでしょう。
その後は、先述した「AudioPaLM」のように異なるアーキテクチャのデータ処理を単一のモデルで実行できるマルチモーダルAIが普及していくと予想されます。生成AIと監視するAIを複合した、より安全性の高いモデルも登場するでしょう。
そして、やがてはそれらを統合して「Windows」のように誰もが直感的に操作できるプラットフォームが出来上がるかもしれません。そこにユーザーを理解する仕組みが導入されれば、AIはひとりひとりのユーザーに合わせてパーソナライズされた万能ツールとなり、特定の目的だけでなく日常生活全般をサポートする存在となるでしょう。いずれは、私たち一人一人が自分の生活や目的に合わせてAIをカスタマイズし、あらゆる場面で活用する「パーソナルAI」の時代が到来するかもしれません。
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