近年、大企業からスタートアップに至るまで、業種を問わずAI活用への関心が急速に高まっています。しかし、AIを実装するにあたり、「何を、どこまで実施すれば、投資に見合う効果が出るのか?」という点で、具体的なイメージを持つことができず、導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、企業のAI活用法として広く普及しつつある「RAG(検索拡張生成)」と、近年注目を集める「AIエージェント」を組み合わせた「Agentic RAG」について詳しく解説します。
目次
◇ 企業のAI活用の基本、「RAG」とは
2022年11月に公開されたChatGPTは、世界中に大きな衝撃を与えました。その革新的な技術を活用し、業務効率化や生産性向上を目指したいと考える企業は多く、様々な生成AIツールやサービスに注目が集まっています。
しかし、資料やノウハウなどの社内データは、多くの場合Web上に公開されていないため、そのままではAIで活用することができません。つまり、企業がAIを活用するためには、固有の知識をAIに反映させる仕組みづくりが不可欠です。
そうした課題の解決策が「RAG(検索拡張生成)」です。RAGは、大規模言語モデル(LLM)が回答を生成する際、外部の情報源(社内データなど)を参照・取得し、その出力に組み込む仕組みです。これにより、LLMが元々持っていない「独自のデータベース情報」を回答に反映することができます。
さらにRAGは、回答の生成に信頼性の高い情報源を利用するため、LLMの弱点と言われたハルシネーション(誤情報の出力)を強力に抑制することができるのです。
RAG・ハルシネーションについては下記の記事もご覧ください。
→RAGとは?生成AIの回答精度を向上させる方法
→【生成AI活用】ハルシネーションへの効果的な対策方法とは?

◇RAGの構造的な限界
上述した理由により、この1〜2年でRAGは急速に普及しました。RAGを構築するためのツールやサービスも数多く登場し、社内データを検索して生成に反映させるだけの初歩的なRAGは、比較的手軽に導入できるようになっています。
ただし、RAGの普及が進むに従って、下記のようなRAGの構造的な限界とも言える課題も浮き彫りになってきました。
①情報の鮮度とハルシネーションのリスク
大企業では、過去の資料やナレッジが大量に保存されていることがよくあります。しかし、一般的なRAGには、検索によって取得した情報の鮮度や正確性を検証する仕組みがありません。古い資料などをRAGの検索対象にしてしまうと、AIは古い情報や誤った情報に基づいて、不正確な回答を生成してしまう可能性があります。
つまり、RAGを適切に活用するためには、常にデータベースに含まれる情報の鮮度を保つ必要があるのです。
②複雑なタスクへの柔軟性の欠如
従来のRAGは、「質問を受けて、データを検索し、結果を基に生成する」という静的なフローで動作します。この固定的な仕組みでは、ユーザーの質問が曖昧な場合や、多段階の推論が必要な複雑な問いに対して、柔軟な対応(例:逆質問、複数回の検索組み合わせ)ができず、回答の品質が低下してしまいます。
例えば、複合的な質問や推論を繰り返すことが必要な場面では、十分なパフォーマンスを発揮できません。
◇ Agentic RAG:エージェントとの融合で進化するRAG
上述した課題に対して今(2025年10月)、大きな注目が集まっているのが「Agentic RAG(エージェント型RAG)」です。これは、自律的に思考し、動的に情報を取得するAIエージェントをRAGプロセスに組み込んだ仕組みであり、本質的に異なるアプローチを提供します。
◆Agentic RAGの仕組み
Agentic RAGは、従来のRAGが抱える構造的な限界を突破し、より知的で柔軟な情報処理を可能にします。その核となるのは、AIエージェントの概念です。
AIエージェントとは、単に指示を実行するだけでなく、①自己評価、②計画、③ツール利用といった自律的な思考・行動ができるLLMのことです。このエージェントを組み込むことで、Agentic RAGは以下の優位性を獲得します。
AIエージェントについては下記の記事もご覧ください。
→AIエージェントとは?AIチャットボット、RPAとの比較
◆ 自律的な情報探索と再評価
Agentic RAGでは、エージェントが「いま必要な情報は何か?」を考え、固定化されたパイプラインではなく自律的な意思決定を行います。
たとえばAgentic RAGは、最初の検索結果を評価し「情報が不足している」と判断すれば、Web検索などの外部ツールを使って情報を補強したり、生成結果を自ら検証し複数回の探索や段階的な思考によってより的確な結果を導くことが可能です。
◆マルチステップタスクの自動実行
Agentic RAGは、複雑な手順を踏むタスクを自動的に遂行することも可能です。たとえば、複数の資料を突き合わせて共通点や矛盾点を探したり、新しい疑問が浮かんだ場合に質問を修正したりといった、多段階プロセスをエージェントが自動で実行します。これにより、単なる情報の羅列ではなく、洞察に富んだ価値の高い回答を構築できます。
◆ 様々な外部ツールとの連携
さらにAgentic RAGは、「この情報にはWeb検索が必要だ」「この部分の処理には計算機ツールを使おう」といった判断を自ら下し、様々な外部ツールやAPIを駆使します。特定のデータベース検索だけに留まらない、柔軟な情報の取得が可能になります。
Agentic RAGなら、業務システムやBIツールのAPIを活用してリアルタイムデータを収集し、経営レポートを自動で生成するといった発展的な活用方法が考えられます。

◇ Agentic RAG導入時のチェックポイント
Agentic RAGは、従来のRAGより設計が高度になるため、その効果を最大限に引き出すためには戦略的なステップを踏むことが重要です。
◆ 導入前の必須ステップ
1. KPIの明確化: まず、「何をどれだけ改善したいか」という具体的な効果測定指標(KPI)を明確に言語化することが、プロジェクトの成否を分けます
2. データ資産の棚卸しとクレンジング: 検索対象とする社内データ(どの部署がどの情報を持っているか)を詳細に把握し、利用に適した形に整理・整形(データクレンジング)することが、RAGには必要不可欠です
3. 段階的な試行(PoC): いきなり全社展開するのではなく、まずは一部の部署やドキュメントに限定してAgentic RAGを試行し、効果を実証しながら段階的に拡大していくアプローチが推奨されます
4. 外部ツール・データソースの整理: AIエージェントに利用させる外部APIや業務システムの範囲を事前に整理し、どのツールが最も有効かを検証する必要があります
◆ 運用開始後に留意すること
Agentic RAGは、自律的に判断を下す分、誤った推論や失敗モードに陥るリスクがあり、モニタリングとフェイルセーフが不可欠です。
• コストパフォーマンスのバランス: Agentic RAGは企業の業務効率化に大きな効果が期待できる反面、コスト面には注意が必要です。自動的に実行するステップ数が増えるほど、APIコストや応答の遅延が増加する傾向があるため、必要な精度とスピードのバランスを考慮する必要があります。
外部サービスを利用する場合、提供されるパフォーマンスがコストに見合ったものか、慎重に見極める必要があります。
• 失敗モード対策: エージェントの自律的な動作は、予期せぬ失敗モード(例:無限ループ、誤った推論)のリスクを伴います。再試行回数やタイムアウトなど、システム全体の安定性を確保するためのフェイルセーフ設計と、応答遅延や誤回答を追跡する継続的なモニタリングが重要です。
◇ 本物のRAGを見極め、AI投資を成功させる
多くの企業が導入を検討する中で、「RAGは単なる検索の延長」という認識に留まってしまうと、Agentic RAGが持つ柔軟な情報統合、動的な意思決定、マルチステップ推論といった本質的な価値を見誤ることになります。
Agentic RAGは、情報源を柔軟に増やし、再取得・再評価を繰り返し、エージェントが自律的に最適なプロセスを選択できるという点で、従来のRAGよりも遥かに高いポテンシャルを秘めています。この技術を正しく活用できれば、企業が持つ膨大な知的資産を最大限に引き出し、真に複雑なタスクの自動化と洞察の深化を実現する、戦略的なAI投資となり得るでしょう。
すでにRAGを導入している企業で、もし現在のシステムに物足りなさを感じているなら、Agentic RAGを採用することで、システムの利用価値を飛躍的に向上させる余地があるかもしれません。進化し続けるAgentic RAGの概念を正しく理解し、自社のビジネス要件に合わせた「本物のRAG」を見極めることが、優位性の確保につながります。
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