生成AI(大規模言語モデル)の登場によって、業務の自動化と効率化が飛躍的に進んでいます。ChatGPTやClaudeなど、自然言語処理を活用したAIは、単なるFAQの応答や定型業務の処理にとどまらず、文脈を理解した柔軟なコミュニケーションや、コンテンツ作成、データ分析の支援まで可能となっています。
一方で、多様化するAIツールの種類の多さに、「どのAIツールを使えばいいのか?」と頭を抱えている企業も多いのではないでしょうか。
最近、特に注目を集めているのは「AIエージェント」と呼ばれる新しいAIツールです。この記事では、AIエージェントとは何かを解説するとともに、従来から存在するAIチャットボットやRPAとの違い、さらにそれぞれが担う役割や得意分野を比較し、詳しく解説します。
◇AIエージェントとは?
◆AIエージェントの概要と特徴
AIエージェントとは、ユーザーの指示を自然言語で受け取り、それをもとに自律的に判断し、複数のツールを横断してタスクを実行できるAIシステムのことを指します。大規模言語モデル(LLM)を活用して、文脈を理解し、複雑なタスクを分解して遂行する能力を備えています。
たとえば、「先週の営業会議の議事録をまとめて、部長とマネージャーに送っておいて」といった指示に対して、AIエージェントは次のような処理を自動で実行します。
- 会議資料データを取得(カレンダーや録音データから)
- 重要な発言や決定事項を要約
- メールを作成し、指定の相手に送信
このように、AIチャットボットのような「対話」だけでなく、RPAのような「処理実行」も統合し、より複雑で柔軟な業務支援を行うのがAIエージェントの特徴です。

◆AIエージェントの主な構成要素
AIエージェントは以下のような要素を組み合わせて構築されます。
- 自然言語処理(NLP):ユーザーの指示を正確に理解
- 推論エンジン:タスクの分解・優先度判断
- ツール連携機能:メール・スケジューラー・データベースなど複数ツールとの連携
- 記憶機能:会話履歴やユーザーの好みを保持
◆AIエージェントを導入する際の注意点
AIエージェントは、ユーザーからの指示(対話)をもとに自律的な処理実行を行う高度なAIツールですが、その性能を最大限に活かすには高度なスキルが求められます。導入時に欠かせない要件設計や複数のツール連携には、専門的なスキルが必要です。また、AIエージェントが行った業務の結果を評価したり、問題に対応するためにはデータサイエンティストやAIエンジニアなどのIT人材が欠かせません。
AIに関する知見や運用経験のない企業が、いきなり高度なAIエージェントを使いこなすのは、ハードルが高いと言えます。
◇AIチャットボットとは?
◆AIチャットボットの概要と特徴
AIチャットボットは、ユーザーとの会話を通じて情報提供や業務支援を行うツールです。Webサイト上での問い合わせ対応、社内ヘルプデスク、ナレッジマネジメントなど、幅広い用途に利用されています。
従来のチャットボットはシナリオベース(ルールベース)で設計されており、決まった質問に決まった回答を返す方式でしたが、現在では生成AIを活用した柔軟な対話型AIチャットボットが主流になりつつあります。
◆生成AIとRAGの活用
近年のAIチャットボットの多くは、OpenAIのGPTシリーズなどの大規模言語モデルを組み込んでいます。これにより、ユーザーの発言の意味や意図を正確に汲み取り、より自然な会話が可能になっています。
特に注目されている技術がRAG(検索拡張生成)です。RAGは、次のような構造を持ちます。
- ユーザーの質問に対して、信頼性の高い外部データベースから関連情報を検索
- その情報をもとに、AIが精度の高い回答を生成
これにより、ハルシネーション(誤情報の生成)を抑制し、正確な情報に基づいた応答が可能になります。RAGを活用したチャットボットは、以下のようなメリットを持ちます。
- 社内資料やマニュアルに準拠した回答
- 情報が更新された際にも自動で反映されやすい
- 回答の根拠を引用するなど、透明性が高い

◆AIチャットボット(RAG)の主な活用シーン
AIチャットボットは、以下のような業務で活用されています。
- カスタマーサポート:問い合わせ対応、返品対応、FAQ
- 社内業務支援:人事・総務・ITの問い合わせ窓口
- ナレッジ活用:社内ドキュメントの検索と要約
このように、AIチャットボットは「ユーザーとの対話」に強みを持ち、導入のしやすさもあって多くの企業で採用されています。
RAGについての詳細は、下記の記事をご覧ください。
◇RPAとは?
◆RPAの概要と特徴
RPA(Robotic Process Automation)は、定型的で繰り返しの多い業務を自動化する技術です。Excelへのデータ入力、システムからのデータ抽出、帳票出力など、「人がPC上で行う操作」をロボットに模倣させることで自動化を実現します。
主に「明確な手順が決まっている作業」に強く、ヒューマンエラーの削減や業務スピードの向上に効果があります。

◆RPAの活用例
- 経理業務:請求書の処理、伝票入力
- 営業事務:日報の自動集計、見積作成
- 人事・労務:勤怠データの集計、入退社の事務手続き
RPAは比較的古くから存在する技術ですが、生成AIやAIエージェントと組み合わせることで、より高度な自動化も可能になります。
◇AIチャットボット・RPA・AIエージェントの比較
こちらは、それぞれの特徴を比較した表です。得意分野や導入のしやすさが異なるため、それぞれの特徴を把握してAIツールを選定することが重要です。
項目 | AIチャットボット | RPA | AIエージェント |
---|---|---|---|
主な用途 | 問い合わせ対応、 情報検索、共有 | 定型的な作業の 自動化・反復 | 複数業務の自律的遂行と意思決定支援 |
導入のしやすさ | 比較的容易 | 中程度 (手順の明確化が必要) | 難しい (要件設計・連携が複雑) |
柔軟性 | 中程度 (生成AIによる自由対話) | 低 (決められた操作のみ) | 高 (文脈理解・推論・実行) |
得意分野 | カスタマー対応、社内ヘルプデスクなど、柔軟性が必要な対人業務 | 帳票処理、データ入力などの定型業務 | 分析、調査、調整などを含む複雑な業務 |
主要技術 | 生成AI、RAG | ワークフローエンジン、 UI操作記録 | 生成AI、ツール統合、 自律エージェント設計 |
◇課題別おすすめAIツール
AIチャットボット、RPA、AIエージェントはいずれも業務効率化に貢献する技術ですが、それぞれ得意な領域が異なります。闇雲に最新技術を取り入れるのではなく、自社の課題や業務の性質に合わせて、適切なツールを選定することが重要です。
ここでは、よくある業務課題と、それに適したAIツールについて解説します。
課題:問い合わせ対応が多く、担当者の負担が大きい
おすすめツール:AIチャットボット(RAG)
カスタマーサポートや社内ヘルプデスクにおいて、類似した問い合わせが多く、対応に時間を取られている場合は、AIチャットボットが非常に効果的です。RAGを活用すれば、最新の社内データに基づいた正確な回答が可能になり、問い合わせ対応の品質も向上します。
- 例:マニュアル、社内規定、自社サイト情報などを元にしたFAQ対応
- メリット:24時間対応、担当者の対応時間削減、ナレッジ共有の効率化
課題:データの転記や帳票作成など、定型作業が多い
おすすめツール:RPA
Excelや基幹システムを使った単純作業に多くの時間が割かれている場合は、RPAの導入が有効です。業務フローが明確で、ルール通りに動かせる作業ほど自動化に適しています。
- 例:経費精算データの入力、売上データの集計、帳票PDFの自動出力
- メリット:ミス削減、スピード向上、担当者の手離れ
課題:属人化した業務や複数ツールをまたぐ作業を減らしたい
おすすめツール:AIエージェント
「ワークフローが属人化している業務」や、「調整・確認・実行」が混在する非定型業務の効率化には、AIエージェントが向いています。複数のツールを統合して利用できるため、Slackでのやりとりを確認し、スケジュールを調整し、メールを送るなどの一連のタスクを自動化できます。
- 例:会議の調整と招集、議事録の作成、プロジェクト進捗の追跡
- メリット:非効率な業務の可視化と標準化、複雑業務の自動遂行
課題:業務プロセスをまだ整理できていない
おすすめツール:AIチャットボット(RAG)
業務のボトルネックや自動化できる範囲が明確でない企業は、まずはシンプルなAIチャットボットから導入するのがおすすめです。AIチャットボットは比較的コストが低く、専門知識を必要としない場合が多いため、最小限の負担で導入できます。なおかつ、業務フローを見える化しながら、徐々に対象範囲を広げることで、失敗しにくい段階的なDXが実現できます。
- 例:社内の問い合わせ内容をログで可視化し、改善ポイントを特定
- メリット:導入リスクの低減、業務課題の洗い出し、スモールスタート
課題:社内にAIやITの専門人材がいない
おすすめツール:AIチャットボット(RAG)
AIやITに関する専門人材がいない場合、まずは導入負担の小さいAIチャットボットを使ってみるのがおすすめです。それでもツールの選定や構築、運用に不安がある場合は、サポートの手厚いAIチャットボットベンダーをパートナーにすることで安心して導入が進められます。UIが分かりやすく、社内で無理なく運用できる設計かどうかも大切なポイントです。
- 例:質問対応のテンプレート作成支援、運用状況のレポート提供
- メリット:運用定着、継続的な改善、属人化の防止
まずはAIチャットボットで業務改善の第一歩を
現時点で業務の見直しを進めたい企業にとって、最も導入しやすく、成果が出やすいのがAIチャットボットです。特にRAGを活用した高性能なチャットボットであれば、社内のナレッジを資産として活かしながら、正確かつスピーディーな対応が実現できます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
最初の業務活用におすすめのAIツール
SELF株式会社の提供する「SELFBOT」は、カスタマーサポートや社内問い合わせ対応の効率化を目的として、数多くの企業、自治体、教育機関に導入いただいているAIチャットボットです。
→「SELFBOT」サービス詳細ページ
また、生成AIとRAG(検索拡張生成)システムの基本と運用が学べる「生成AI×RAG活用セミナー」も実施しています。
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