毎年秋から冬にかけて、多くの経理担当者を悩ませるイベント――それが 年末調整 です。
申告書類の回収、控除内容の確認、期限管理、そして社員からの問い合わせ対応。膨大な事務作業に追われ、本来やるべき経理業務に手が回らないという悩みは、多くの企業でよく聞かれます。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが、RAG(検索拡張生成) という技術です。
この記事では、RAGの仕組みと経理業務との相性、そして実際に SELFBOT を使って「年末調整Bot」を構築した事例を詳しく紹介します。
目次
◇ RAG(検索拡張生成)とは? 経理業務に強い理由
RAGとは、AIが単なるテキスト生成を行うのではなく、外部データ(社内マニュアルやFAQ、規程集など)を検索して参照しながら回答を生成する仕組みです。
従来のAIチャットが「一般的なそれらしい情報」を提示するのに対し、RAGは社内ドキュメントを情報源とするため、「業務に即した正確な回答」が可能になります。
◆ RAGの特徴とメリット
- ナレッジの有効活用
社内のPDFやドキュメントなどの資料を検索対象にできるため、担当者個人の知識に依存しない問い合わせ対応が可能です。 - 誤答のリスクが低い
実際の社内ドキュメントを根拠に回答を返すため、生成AIの「ハルシネーション(誤情報の出力)」が抑制され、情報の信頼性が高まります。 - 問い合わせ対応の自動化
社員からの「よくある質問」にBotが対応。社員一人ひとりが疑問を自己解決できるようになることで、経理担当者の負担を大幅に削減できます。 - 更新が簡単
ドキュメントを更新すれば回答内容も自動で最新化。Botをメンテナンスする必要がほとんどありません。
このようにRAGは、業務知識が明確で、ルールベースで対応できる領域に非常に強い仕組みです。そしてまさにその代表が「年末調整」なのです。
RAGについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
◇ 経理担当者が抱える年末調整の課題
年末調整の業務は、会社の規模が大きくなるほど複雑さが増します。以下のような課題は、多くの企業に共通しています。
1. 書類管理とチェック作業の煩雑さ
扶養控除申告書、保険料控除証明書、住宅ローン控除関連の書類など、提出・確認すべき資料が非常に多い上、個別対応が必要になることも珍しくありません。
2. 同じ問い合わせへの対応コスト
「控除証明書はいつまでに提出すればいいですか?」「年末調整って何をするんですか?」といった基本的な質問が毎年繰り返され、経理担当者の時間を圧迫します。
3. 制度改正や社内ルールの属人化
税制改正や社内規程の変更があっても、情報が一部の担当者にしか共有されず、対応が属人化しがちです。
4. ヒューマンエラーのリスク
大量の書類を人手で処理するため、確認漏れや計算ミスが発生しやすいという課題もあります。
こうした課題は、RAGによるナレッジ活用と自動化によって大きく改善できます。

◇ RAGで経理部の年末調整を効率化する仕組
RAGを活用すると、年末調整業務の「問い合わせ対応」「ルール共有」「マニュアル参照」といった繰り返し作業を、AIに肩代わりさせることができます。
1. 社員のFAQ対応を自動化
年末調整に関するよくある質問をRAGに学習させれば、社員がBotに質問するだけで、正確かつ即時に回答を得られます。
これにより、担当者は同じ質問に何度も答える必要がなくなります。
2. 社内規程・マニュアルの検索連携
社内経理マニュアルや税務資料などを検索対象にすることで、「社内の正しい情報」をもとに回答できるようになります。
新しい担当者でも、高品質な回答が可能です。
3. 経理担当者の負担軽減とスピード改善
問い合わせ対応の一次窓口をBotが担うため、担当者は例外処理や高難度な確認業務に集中でき、作業全体のスループットが大幅に向上します。
◇ 実践編:SELFBOTで「年末調整Bot」作ってみた
実際にRAGの効果を検証するため、SELFBOTを使って社内向け「年末調整Bot」 を構築してみました。国税庁が公開している年末調整に関するドキュメントや社内で利用している会計ソフトのマニュアルを検索対象として、社員からの質問に即座に答える仕組みです。設定に要した時間はおよそ20分でした。

◆ 必要な準備とデータ整理
Bot構築の前に、次のデータと資料を用意しました。
- 国税庁が公開している年末調整に関する資料(PDF)
- 利用中の会計ソフト操作マニュアル(PDF)
- よくある質問(FAQ)リスト
これらを整理し、RAGの検索対象として登録します。
SELFBOTはPDFなどの資料を自動的に構造化してRAGでの検索に適した形式に変換できるため、ひとつひとつデータを整備する必要はありません。
◆ 「年末調整Bot」構築のステップ
- ナレッジ登録
国税庁の資料、経理部門のマニュアルをSELFBOTの学習リソースにアップロード。 - 検索精度の調整
「保険」「扶養」「控除」など、年末調整に関する頻出キーワードに合わせて「カテゴリ」を設定。
「カテゴリ」を設定することでRAGの検索ウエイトを任意に調整し、回答精度を高めることができます。 - 制御用プロンプトの設計
回答の長さや必ず付加してほしい情報などは制御用のプロンプトに入力します。制御用プロンプトはBot利用者のクエリと一緒にLLMに送信され、すべての回答に反映されます。参照した資料へのリンクや、「次に予想される質問」も自動で添付されるようにします。 - 初回会話の設定
Botを起動した際に最初に表示される案内用の文言を設定します。
以上でBotの構築は終了です。
◆ 実際に使ってみた
社員が「年末調整の提出期限は?」と入力すると、Botがナレッジから瞬時に検索し、以下のような形で回答します。

質問文に応じて、回答と参照した資料へのリンク、次に予想される質問を出力してくれます。

「必要書類は?」と質問すると、条件ごとの必要書類を一覧で提示してくれました。これなら、自分が提出する必要のある申告書が一目でわかります。

参照リンクをクリックすると、回答の根拠となったPDF資料を閲覧できるので、より詳細で信頼性の高い情報に即座にアクセス可能です。また、PDFはこの画面からダウンロードすることもできます。
◆ 期待されるRAGの効果
このBotを構築することで、SELF株式会社では以下のような効果が期待できます。
- 経理への年末調整に関する問い合わせ件数が 約70%減少
- 従業員の疑問解決に要する時間が 5〜10分 → 10秒以下 に短縮
- 社員の自己解決率が向上し、申請ミスも減少
- 年末調整関連の説明会や周知の負担も軽減
Botが一次対応を担うことで、担当者は複雑なケースに集中できるようになり、年末の繁忙期のストレスも大幅に軽減されることでしょう。
◇ RAG活用は年末調整だけじゃない!社内業務全般に応用可能
今回の年末調整Bot構築でわかったのは、RAGが経理業務だけでなく 社内の定型問い合わせ全般に強力な効果を発揮する ということです。
経理以外にも応用できる業務例
- 勤怠・有給休暇・経費精算などの労務関連FAQ
- セキュリティ・コンプライアンス・社内ポリシーの案内
- ITサポートやアカウント関連のヘルプデスク対応
- 新入社員のオンボーディング支援
ナレッジベースを整理し、RAGでBot化することで、「誰かに聞かないとわからない」をなくすことができます。
これによりナレッジ管理の属人化が減り、社内全体の情報共有が加速します。
◇ RAGで経理業務をDX化しよう
年末調整のような繰り返し発生する事務業務は、生成AI+RAGによる効率化と非常に相性が良い領域です。
今回の実践から得られたポイントをまとめると、以下の通りです。
- 社内マニュアルやFAQを活用し、正確でスピーディな回答が可能
- 経理担当者の負担を軽減し、属人化を防止できる
- 一度仕組みを作れば、翌年以降の年末調整も大幅に省力化できる
- 年末調整以外の業務にも応用可能で、社内DXの基盤として活用できる
「またこの季節が来た…」とため息をつく前に、RAGツールを活用した年末調整業務の自動化を始めてみませんか?
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- 独自の精度向上機能によって柔軟かつ正確な回答を提供
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サービスの詳細は各サービスページをご覧ください。
→SELFBOT 顧客対応:https://self.systems/selfbot/
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SELFのライターを中心に構成されているチーム。対話型エンジン「コミュニケーションAI」の導入によるメリットをはじめ、各業界における弊社サービスの活用事例などを紹介している。その他、SELFで一緒に働いてくれる仲間を随時募集中。




