スマートビルディングとは、「ICTによるビルの運用・管理をより効率的に行える建物」のことです。スマートビル、インテリジェントビルと呼ばれることもあります。主にIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI技術による、エネルギー効率の改善、セキュリティの強化、利用者・居住者の満足度向上などを実現する建物のことです。ICTやAIによる効率化を目的とした「スマートオフィス」をビル全体に拡大したもので、目的は同じですが、商業施設やレジデンス(集合住宅)でもスマートビルディングのシステムを取り入れている建物はあります。
2000年ごろから世界的なトレンドのひとつとなっており、多くの企業がビルの管理システムと連携できる様々なサービスを提供しています。具体的には、たとえば施設の利用状況に応じて空調や照明の調節をビルのシステムが自律的に行ったり、カメラやセンサーで顧客の動向を把握しサービス強化を行うなど、管理者と利用者の双方にメリットがある取り組みがなされています。
目次
◇スマートビル の市場規模
スマートビルの世界市場規模は、2021年の726億米ドルから年間成長率10.5%で成長し、2025年には1,089億米ドルに達すると予測されています。近年、ICTやAI技術の発展によって社会のあらゆる分野で「スマート化」が推し進められており、住居やオフィスビル、集合住宅のスマート化も世界的な潮流の一つであると言えるでしょう。

また、「技術革新による持続可能な街づくり」を指す「スマートシティ」も世界的に注目が集まっています。スマートシティ実現の先駆けとしてスマートビルの普及が進んでいるという側面もあり、今後ますます成長が見込まれる市場となっています。
スマートシティの事例や課題については、下記の記事をご参照ください。
◇スマートビルの導入事例
◼️渋谷ソラスタ
2019年の3月に竣工した渋谷区道玄坂にある「渋谷ソラスタ」はIoTの活用を特徴としており、より生産性の高いワークスタイルをコンセプトとしたオフィスビルです。PCやスマートフォンを使った空調操作、従業員の位置情報のリアルタイム表示、トイレなど共用スペースの混雑状況の可視化などのサービスが提供されています。
また、ビルの来館者受付システムと連携して来館者情報の登録ができ、無人での来館受付が可能です。
◼️東京ポートシティ竹芝
東京都港区の竹芝エリアは、日本政府が推し進めるスマートシティ構想の国家戦略特区に指定されており、その先駆けとしてオフィスタワーとレジデンスタワーからなる「東京ポートシティ竹芝」が誕生しました。
オフィスタワーではIoTやAIを利用した環境の整備やビル管理の効率化が実施され、レジデンスタワーでは顔認証によるタッチレスでの入館・退館や共用施設の混雑状況の可視化などのサービスが提供されています。
◼️オランダ・アムステルダム「ジ・エッジ」
アムステルダムにあるオフィスビル「ジ・エッジ」はヨーロッパで最高レベルの環境性能を実現し、様々な賞を受賞しているスマートビルです。エネルギー効率の良い構造設計に加え、常にエネルギーの使用状況をビルが自律的にコントロールすることで、従来のビルと比べて70%も少ない電力で稼働しています。また、ビル内の約28,000個ものセンサーがアプリケーションと連動し、従業員ひとりひとりに合わせた様々なサービスを提供しています。

◇スマートビル導入の課題
注目が集まりつつも、日本でスマートビルの導入がそこまで進まない大きな理由が、高額な初期コストといわれています。新築ではなく既存のビルをスマート化する場合でも、少なくとも数百万円、ときには数千万円、規模によってはそれ以上の費用がかかるため、気軽には導入できません。
「BEMS(ビルエネルギー管理システム)」の導入だけでも、100万円単位のコストが発生します。BEMSに付随する各種センサーや蓄電システム、太陽光発電システムなども導入するとなると、高額な初期費用が発生することになります。また、統合したデータを管理・活用するためのアプリケーションの導入など、より効率的で便利なシステムを目指すほど、初期費用は高額になっていきます。
BEMSによる省エネを実現することで、長期的に見ると運用コストの削減が期待できます。とはいえ、環境への配慮や生産性の向上を見据えて事業インフラに高額なコストをかけられるほど余裕のある企業は、現在の日本にはそれほど多くないようです。
また新型コロナウィルスの影響もあって、現代では個人の働き方がますます多様化しています。従来のオフィスのあり方を転換せざるを得ない場面も多く、企業にはより快適で生産性の高い環境構築が求められています。同様に、これからのスマートビルディングには環境への配慮や生産性の向上といったコンセプトに加え「ひとりひとりの働き方に合わせた空間・サービスの提供」が求められることになるでしょう。

◇人を理解する「空間」を作る
スマートビルが、より利用者ひとりひとりに合わせたサービスを提供できるようになるには、まずビルを利用する人が何を求めているのかを把握しなければなりません。つまり、「ビルが人を理解する」ことが必要です。
オランダ・アムステルダムにあるオフィスビル「ジ・エッジ」では約28,000個ものセンサーを設置することで従業員のあらゆるデータを収集し、多岐にわたるサービス提供に活用しています。しかし、それほど大規模なスマートビルのシステム導入は上述した初期コストの観点から、相当な大企業でもない限り実現できないことかもしれません。また、センサーやカメラからは人の動向や外見的な情報を得ることはできますが、ひとりひとりの「思考や感情」を正確に読み取ることは難しいでしょう。
より深く人を理解するシステムを構築するためには、人の思考や感情といった数値化することの難しい情報を得る必要があります。
◾️スマートビル×コミュニケーションAI
スマートビルやスマートオフィスのシステムと人をつなぐ役割として期待されるのがコミュニケーションAIの導入です。
弊社(SELF株式会社)の提供するコミュニケーションAIは、ユーザーとの会話を通してあらゆる情報を収集し、ひとりひとりに合わせたサービスの提供を行うことができます。
たとえば、従来のスマートビルのシステムでも室内の利用状況や従業員の好みに合わせて照明や空調を調節することはできます。ここにコミュニケーションAIによる情報取得を組み合わせることで、個人の気分や体調といった「日によって異なる状態」に合わせた照明・空調の調節などが可能となります。また、従業員の業務状況に合わせて休憩を促したり、業務上の課題や悩み事をヒアリングしたりと、従業員のヘルスケア・メンタルケアに役立てることもできます。
従業員のメンタルケアに関しては、こちらの記事もご覧ください。
◾️スマートビルディングがもたらすもの
世界から注目を集めるスマートビル「ジ・エッジ」へオフィスを移転したデロイトは、採用活動のために実施しているイベントの応募者が2.5倍になり、就職希望者から送られてくる履歴書も倍増したことを明かしています。また、その応募者の62%が「ジ・エッジで働けること」を応募理由に記載していたそうです。今やオフィスのスマート化は単なるコスト削減や環境への配慮というだけではなく、企業のブランドイメージや注目度に大きな影響を与える要素となっているといえるでしょう。日本でも企業が優秀な人材を確保するための「売り」として、スマートビル導入が重要な役割を担う時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。
〈参考資料〉
PR TIMES
スマートビルディングの世界市場:コンポーネント(ソリューション(安全・セキュリティ管理、ビルインフラ管理、ネットワーク管理、IWMS)、サービス)、ビルタイプ(住宅、商業、産業)、地域別 – 2026年までの予測-株式会社グローバルインフォメーション
DE-SIGN
世界で最も働き方をスマートに変えたビル
Wikipedia
渋谷ソラスタ
東京ポートシティ竹芝

SELFのライターを中心に構成されているチーム。対話型エンジン「コミュニケーションAI」の導入によるメリットをはじめ、各業界における弊社サービスの活用事例などを紹介している。その他、SELFで一緒に働いてくれる仲間を随時募集中。